9月後半のリレー俳句、全体を通して読みました。
粒がそろっており、選ぶのが難しいほどですが、特選1句・入選4句・選外佳作数句を、忖度なしで選びます。
選評は「句の構造」「季語の働き」「言葉の選択」「俳句としての跳躍」を中心に、俳句としての完成度を基準にしました。
特選(1句)
秋燕無人駅より旅立てり 勝彦(9/19)
● 選んだ理由
この句は、季語・情景・叙法の三拍子が揃った完成句。
「秋燕」という季語は、春の燕の賑やかさとは異なり、旅立ち・別れ・静けさを帯びる。
その燕が「無人駅」から旅立つという取り合わせが、
人間の孤独・人生の旅立ち・時間の流れを自然に重ねる。
● 選評
「無人駅」という具体物が、秋燕の寂寥感と響き合う
「旅立てり」の文語が、燕の動きを格調高くまとめる
人間の感情を直接言わず、燕の動きに託している
余白が広く、読者が自分の人生を重ねられる句
季語の力を最大限に活かしつつ、情景と心情が自然に重なる。
この日の投句の中でも頭ひとつ抜けていました。
入選(4句)
① 秋夕焼打ち身の青も赤だんだん 桜子(9/16)
● 選評
「打ち身の青も赤もだんだん」という身体の変化を、
「秋夕焼」の色の移ろいに重ねた句。
夕焼けの赤が、打ち身の色の変化を照らすようで、
身体の痛みと季節の移ろいが一つの色彩に収束する。
「だんだん」の口語が効いており、
秋夕焼のゆっくりした時間感覚と響き合う。
② 打つ雨のしぶきのやうに白き萩 桜子(9/17)
● 選評
「白き萩」を「雨のしぶきのように」と捉えた比喩が秀逸。
萩の白さは点描的で、雨のしぶきのように見える瞬間が確かにある。
自然の観察が鋭く、比喩が過剰にならず、俳句的な跳躍がある。
視覚の句として完成度が高い。
③ 秋燕やをちより風の来るといふ なお(9/19)
● 選評
「をちより風の来るといふ」が美しい。
古語の響きが秋燕の軽やかさとよく合う。
燕の動きと風の気配が、
見えないものの存在感を立ち上げる句。
「といふ」で終えることで余白が生まれ、
読者が風の方向を想像できる。
④ 濡れ傘の露をばさりと秋晴るる 薫(9/30)
● 選評
「ばさり」という擬音が効いている。
濡れ傘の露が落ちる瞬間に「秋晴るる」と季節が転換する。
動作と季節の変化が一瞬でつながる、俳句らしい瞬間の捉え方。
「露をばさりと」が具体的で、
「秋晴るる」が抽象へ跳ぶ構造が美しい。
選外佳作(数句)
ここからは「入選には届かないが、光る部分がある句」を選びます。
● 秋雨や薄桃色のすあま欲し 勝彦(9/16)
「薄桃色のすあま」が秋雨の寂しさとよく合う。
甘味の選択が俳句的で、情緒がある。
● 肉球の跡点々と秋の雲 美和(9/18)
発想が面白い。
肉球の跡と秋の雲の点描的な形状を重ねる跳躍がある。
● 栗飯や塗りのはげたる夫婦箸 利保(9/20)
生活感があり、夫婦の時間の蓄積が見える。
「塗りのはげたる」が効いている。
● 曼殊沙華触手に重き雨の粒 利保(9/24)
曼殊沙華の形状を「触手」と捉えたのが新鮮。
雨粒の重さが視覚的に伝わる。
● 名月やおいでと言へばほろと出づ 彩香(9/25)
「ほろと出づ」が名月の柔らかさと合う。
擬態語の選択が巧い。
総評(全体を通して)
9月後半は「曼珠沙華」「台風」「野分」「敬老の日」「秋燕」が軸
桜子さんは色彩の句が強く、視覚の精度が高い
なおさんは古語の響きを活かした句が安定
美和さんは生活感と自然の取り合わせが巧い
勝彦さんは浅間山・秋燕など、風景の句が安定して強い
利保さんはユーモアと生活感の句が光る
彩香さんは擬音・擬態語の選択が巧く、句が柔らかい
万紀子さんは情緒の句が多く、しぐれの句が良い
薫さんは生活の動作を季語に結びつける句が強い
全体として、
季語の扱いが丁寧で、生活と自然の距離が近い句が多い印象でした。